『流浪の月』のあらすじや感想が知りたいです!
『流浪の月』というタイトルにはどんな意味があるの?
こんなお悩みを解決します。
この記事で分かること
- 『流浪の月』あらすじ
- 『流浪の月』ネタバレなし感想
- 『流浪の月』のタイトルの意味
- 文庫化&映画化情報
どうも、年100冊の読書を楽しんでいる、おみそ(@kuminasu_omiso)です。当ブログ「くもゐなす茶房」の看板猫です♪
くもゐなす茶房のマスター・飼い主です。おみそに本のことを学んでいます!
他人の善意が苦痛に感じることがある...
他人の幸せを生きてしまっている気がする...
そんな"違和感"を体現した小説、凪良ゆうさん作『流浪の月』のあらすじや感想タイトルの意味を解説しています。
2020年本屋大賞受賞作です!
後味がよくないのに、何とも言えない幸せを感じる、新感覚の結末を迎える小説!
先に感想を伝えると、善意への違和感や幸せの在り方について考えされられる、とても読み応えのある作品でした。
それでは、本の世界をいっしょに旅しましょう
目次から好きなところにジャンプできます!
2020年本屋大賞!『流浪の月』(作者・凪良ゆう)作品内容&登場人物
凪良ゆう『流浪の月』作品内容
著者 | 凪良ゆう(なぎらゆう) |
ジャンル | サスペンス、ヒューマンドラマ |
テーマ | 幸不幸の価値観、いびつな善意、名前のない愛のかたち |
読み応え | |
文庫発売 | ×(2022.2.26発売) |
出版年 | 2019年 |
出版社 | 東京創元社 |
ページ数 | 313ページ(単行本) |
『流浪の月』作者・凪良ゆうさん
凪良ゆう(なぎらゆう)
- 滋賀県生まれ
- 『花嫁はマリッジブルー』で本格デビュー。以後、BL作品を中心に刊行
- 2017年『神さまのビオトープ』で非BL作品を発表
- 『流浪の月』で2020年本屋大賞を受賞
『流浪の月』の作者・凪良ゆうさんの半生や価値観、作品については、ダ・ヴィンチインタビュー「凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』発表までの苦悩とは?」で詳しく語られています。
- 家族ではない人間同士の絆
- 幸福と不幸の価値観 など
凪良ゆうさんの作品に込められたテーマとそれを描く彼女なりの理由がよく分かるインタビューでした。
『流浪の月』を読んでからインタビュー記事を見るのがおすすめです♪
凪良ゆう『流浪の月』登場人物
家内更紗(かない・さらさ)【映画キャスト:広瀬すず】
小学校では"変わり者"扱いされていたが、両親と幸せな日々を過ごす。だが、9歳で父を亡くし、母に捨てられて孤独の身となる。伯母の家に預けられるが、居心地が悪く、公園で話しかけられた大学生(佐伯文)の家に行き2ヶ月を過ごす。そのことがきっかけで「誘拐事件の被害者」としての人生が始まる。その後は児童養護施設に預けられ、高校卒業後、事務員として就職。
佐伯文(さえき・ふみ)【映画キャスト:松坂桃李】
中性的な容姿の青年。いつも公園で少女たちが遊ぶ様子を眺めていたため"ロリコン"と呼ばれていた。19歳のとき、公園で寂しそうにしていた更紗に声を掛け、2ヶ月間家に住まわせたことで、「家内更紗ちゃん誘拐事件」の犯人となる。
中瀬亮(なかせ・りょう)【映画キャスト:横浜流星】
家内更紗の彼氏。29歳の営業マン。実家が農家で一人っ子である。祖母の体調不良ということもあり、実家に更紗を紹介し、結婚の話を進めようとしている。
安西梨花(あんざい・りか)【映画キャスト:増田光桜】
更紗の勤務先にいる数少ない話し相手である安西佳菜子(映画キャスト:趣里)の娘。安西佳菜子にあることを頼んだ代わりに、更紗が数日間家で預かることになる。手のかからない女の子。
『流浪の月』あらすじ【簡単に!結末ネタバレなし】
『流浪の月』のあらすじを簡単にまとめました!
簡単なあらすじ
両親は世間から見たら"変わり者"だったが、それは更紗には関係なかった。両親は娘の前でキスをするし、昼間からお酒を飲む。更紗がカクテルが作りたいと言えば作らせてくれた。更紗の幼少期は幸せなものであった。父が死ぬまでは。
父が亡くなってからというもの、更紗の生活は大きく変わった。母は父の死を受け入れられず更紗を捨てた。お気に入りのカータブルはランドセルに変わり、夕飯にアイスを食べることも子供がカクテルを作ることも許されない伯母の家で居心地の悪さを感じていた。
そんな空っぽの更紗の目の前に現れ、手を差し伸べてくれた一人の大学生がいた。佐伯文という男だ。彼は行き場のない少女を自宅にかくまい、夕飯にアイスを食べされてくれた。それは更紗にとって幸せな日々だったが、周りから見れば立派な誘拐事件である。2ヶ月間ともに過ごした後、文といっしょに動物園に出かけた更紗はあっけなく見つかり、保護される。
更紗は「家内更紗ちゃん誘拐事件」の被害者として、文は幼女を誘拐した犯罪者としての人生が始まる。
※凪良ゆう『流浪の月』p13~70をもとに作成
『流浪の月』感想【ネタバレなし&あり】
「家族とも恋人とも友人とも違う愛と幸せのかたち」を見事に描き切った素敵な小説でした。
読後すぐに書いた感想がこちらです。
感想
- 絶対的幸福感【ネタバレなし】
- 笑ってくれる人がいる幸せ【ネタバレなし】
- 見せかけの善意【ネタバレあり】
- 家族でも恋人でも友人でもない関係性【ネタバレあり】
4つに分けて詳しい感想を書きます♪
感想➀:絶対的幸福感(作品のテーマ解釈)【ネタバレなし】
物語の結末をどう捉えるのかは人それぞれ。
『流浪の月』もまた、ハッピーエンドともバッドエンドとも捉えられるような最後を迎えました。
ですが、わたしとしては、超ハッピーエンドだと感じています。
結末を含めた詳しい感想はネタバレありの感想で書いています。ここではわたしが思う物語のテーマについての感想を書きます。
わたしは、この物語のテーマは「絶対的幸福」だと思っています。
「絶対的幸福感」って?
聞き馴染みのない言葉なので、簡単に説明すると、「絶対的幸福」というのは、「自分にとっての幸せ」のことです。
詳しく解説するとこんな感じです。
絶対的幸福
外の条件に左右されることのない幸福。どこにいても、また何があっても、生きていること自体が幸福である、楽しいという境涯をいう。(聖教新聞用語解説)
絶対的幸福の対をなす言葉として「相対的幸福」というものがあります。
相対的幸福
物質的に充足したり、欲望が満ち足りた状態であるが、不安定で永続性がない幸福。(聖教新聞用語解説)
文と更紗が迎えた結末は、他人から見たら決して満ちたりた状態ではありません。
ですが、「どこにいても、何があっても、生きていること自体が幸せ」という絶対的幸福を感じられているのではないかと思います。
感想②:笑ってくれる人がいる幸せ【ネタバレなし】
どんな失敗をしたとしても、何かつらいことがあっても、世界の中にそれを笑い飛ばしてくれる人がいるだけで救われれるものです。
幼少期の更紗もそうでした。
両親と過ごしていたころ、着色したサイダーの写真を学校に持って行ったことから、「家内さんは小学生なのにお酒を飲んでいる」と学校で陰口を言われるようになってしまいます。
ですが更紗は平気でした。
家では笑い話になっていて、だからわたしは学校で陰口を言われてもまったく傷つかなかった。
凪良ゆう『流浪の月』p23
色付けしたサイダーを飲むたびに笑い飛ばしてくれる家族がいたからです。
その後両親を失い伯母の家に預けられた更紗は、新しい小学校でも失笑の対象になります。
みなが制服でランドセルを背負う中、白いワンピースとカータブルだったからです。
こんなとき、お父さんとお母さんがいたら笑ってくれたでしょう。
でもそんな存在はもういまいせんでした。
ちがったのは、別にいいと笑ってくれる人がいないということだ。
凪良ゆう『流浪の月』p23
子供であれ大人であれ「帰れる場所」があることはとても大切です。
心理学で、ボウルビィという方が「心の安全基地」という考えを提唱していますが、まさにこれだと思いました。
外から戻ってきたときに喜んでくれる人がいると、人は「心の安全基地」をもつことができます。
どんなことがあっても笑ってくれる誰かがいることは人間にとって必要不可欠なことなのですね。
それを子供時代に失った更紗の苦しみは計り知れないものだったでしょう。
感想③:見せかけの善意【ネタバレあり】
”「家内更紗ちゃん誘拐事件」の被害者”としてデジタルタトゥーを刻まれた更紗。
事件の被害者であり身寄りのない彼女は、いやというほど"善意"を浴びてきました。
善意は、相手を労る心あってこそのものです。
ですが更紗の場合、周囲の人が知っている事実と本人が体験した真実にギャップがあります。
たとえそれが本当の善意であったとしても、彼女にとっては"見せかけのもの"になってしまうのです。
白い眼というものは、被害者にも向けられるのだと知ったときは愕然とした。
いたわりや気配りという善意の形で、『傷物にされたかわいそうな女の子』というスタンプを、わたしの頭から爪先までぺたぺたと押してくる。
みんな、自分を優しいと思っている。
凪良ゆう『流浪の月』p75
見せかけの善意にさらされ続けた更紗は、『(文に)傷物にされたかわいそうな女の子』という誤解を解くことをやめました。
哀れみも、善意も、常に静かに微笑んで受け流す。
わたしはいつからか、おとなしい人と言われるようになった。
凪良ゆう『流浪の月』p75
事実と真実との差が「周囲の人から見た更紗」と「本来の更紗」のギャップを広げ、他人の善意が更紗にとっては"悪"となり、理解されることをあきらめてしまいました。
きっと、本当に思いやって更紗を理解しようとしてくれた人もいたでしょう。
結果的に"見せかけの善意"に疲れ果てた彼女は、他人と深く関わらないという選択をしました。
そんな中で深い関わりをもった亮は、まさに"見せかけの善意"の代弁者のような人です。
ですが、更紗が最後に選んだのは、<理解者>の文と過ごす毎日でした。
更紗に必要だったのは、善意ではなく、理解者だったのですね。
自分にとっての"善"が相手には"悪"となることもあります。それは仕方のないことです。
その差を埋めていくのは、相手を理解しようとする姿勢なのではないでしょうか。
感想④:家族でも恋人でも友人でもない関係性【ネタバレあり】
『流浪の月』を「後味の悪い小説」と感じる人も多いと思います。
わたしも後味がよかったとはとうてい思えません。
ですが、更紗と文が選択した結末は多幸感にあふれるものだと感じました。
読み終わったあと、とっても幸せな気持ちになりました。
誘拐事件の加害者と被害者がともに生活をするのは「普通」ではありません。
「おかしなこと」です。
第三者から見た更紗と文の関係は、"洗脳が解けない不幸な被害者"と"懲りずに洗脳し続けるヤバい犯罪者"
それが事実です。
でも真実はちがいました。
わたしがわたしでいるために、なくてはならないもの、みたいな
凪良ゆう『流浪の月』p248
わたしは文に恋をしていない。キスもしない。抱き合うことも望まない。
けれど今まで身体をつないだ誰よりも、文と一緒にいたい。
わたしと文の関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。
凪良ゆう『流浪の月』p301
家族でも友人でも恋人でもない、真実を分かち合った二人が、お互いをかけがえのない存在として大切に思っている。
その関係性に名前を付けることはできませんが、一つの愛のかたちであることにはちがいないでしょう。
ルールや"普通"であふれた世の中で「自分たちにとっての幸せ」を貫いた、
二人の関係性を"幸福"を呼ばずに何と言えばいいのか、わたしには分かりません。
『流浪の月』タイトルの意味は?
『流浪の月』では、最後までタイトルについて触れられることはありませんでした。
そこで、『流浪の月』というタイトルの意味を考察していきます。
作品を楽しんでもらいたいので極力ネタバレを避けて書いていますが、小説の結末に言及している部分があります。
未読の方は下のボタンで飛ばすことができますので、ご利用ください。
『流浪の月』のタイトルの意味は?
『流浪の月』は「流浪」と「月」に分けて解釈することができます。
まずは「流浪」です。
「流浪」とは、「住むところを定めずさまよい歩くようす」を表す言葉。
これは、結末を迎えた文と更紗の境遇を表していると思われます。
詳しくは書きませんが、物語を最後まで読むとよく分かります。
次に「月」ですが、こちらは人によって様々な解釈ができるのではないでしょうか。
「月」というと満月や半月、三日月、新月などさまざまな種類がありますよね。
月はいつでも丸く、地球の衛星として常に存在していますが、その時によって見え方は違います。
太陽との位置関係により、わたしたちの目に映る月のかたちは変わります。
新月のように見えなくなってしまうこともあれば、三日月のように一部見えるときも、満月になるときも、月は形を変えているわけではありません。見え方が変わっているだけ。
そこに"ある"のにわたしたちからは"見えない"または"見ようとしていない"だけなのです。
このような月の特徴が、文と更紗を表すものであり、物語のテーマを象徴するものでもあるように思えます。
文と更紗を表す"月"
他人から見た二人は三日月(☽)のように見えるでしょう。
月の光っている部分だけを見て、更紗を「かわいそうな被害者」、文を「ロリコンのヤバい犯罪者」と言うでしょう。
では、文から見た更紗、更紗から見た文は、どのように見えるのでしょうか。
三日月には変わりないけれど、欠けたところ含めて"まんまるの月"(🌒)に見えているのではないでしょうか。
それは、お互いが見えないけどたしかにある真実を見ているからです。
欠けた月の黒いところを。
テーマとしての"月"
事実と真実はちがう。
凪良ゆう『流浪の月』p309
作中で、文が言ったこの一言に『流浪の月』のテーマが集約されています。
事実だけ見たら文と更紗は不幸に思えます。
でも真実を分かち合える人がいる二人は、彼/彼女自身はとても幸せでしょう。
月の光っている部分はよく見えます。
ですが、本当に大切なことはよく目を凝らして見ようとしなければ見ることはできません。
三日月や半月や新月の影の部分のように"なかったこと"にされてしまいます。
人間は誰しも欠けた部分をもっています。
月がほとんどの日は欠けているように完璧でいられることなんでほとんどありません。
「欠けた月の黒いところ」
たとえ全てを理解し共感し得なかったとしても、自分の"足りない部分"を見ようとしてくれる、受け入れようとしてくれる人がこの世界に一人でもいることが、絶対的幸福なのではないでしょうか。
すごいスピードで進んでいくので、月の位置すらあっという間に変わっていく。
凪良ゆう『流浪の月』p309
そんな忙しない日々の中で、自分にとっての幸せを増やしていく、それが人生の醍醐味なのかもしれません。
おみそのテーマ解釈
本当の幸せとは、絶対的なものである。
自分がそう感じるのであれば幸福であり、それは決して他の誰かに決められるものではない。
まとめ:『流浪の月』あらすじ・感想&タイトルの意味
凪良ゆう『流浪の月』のあらすじや感想、タイトルの意味について解説しました。
この記事のまとめです。
まとめ
- 『流浪の月』は読み応えのあるサスペンスヒューマンドラマ!
- おみそが思うテーマは「絶対的幸福感」
- タイトルは文と更紗を象徴している
- 「事実と真実はちがう」
2020年本屋大賞受賞という定評通り、凪良ゆうさんの実力が遺憾なく発揮された小説でした!
2022年2月に文庫化、5月には映画化を控え、今後も目が離せませんね。
何より自分にとっての幸せを考えるきっかけになる作品でした。
とりあえず、今日の夕飯はアイスで決まりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
この記事が少しでもあなたのお役に立てれば幸いです。
それではまたお会いしましょう♪
文庫化&映画化情報:2022年は『流浪の月』の年!
2022年5月に広瀬すず×松坂桃李主演で映画化が決定しています。
作者の凪良ゆうさんが映画の試写を観てきたそうで、出来に大満足だったようです!
【追記2022.5.20】映画『流浪の月』観てきました!
映画を観てきました♪俳優さんの演技が素晴らしかったです。物語の構成も大切なところはしっかり描写されていて、『流浪の月』愛を感じる映画化でした。小説既読の人にもおすすめです。
2022年2月23日に『流浪の月』が文庫化されます!
映画も文庫本も楽しみですね♪
文庫で『流浪の月』を楽しむ♪
おみそのつぶやき:『流浪の月』主題歌を選ぶなら...
『流浪の月』を読んでいて、この2曲が浮かびました♪
おみそ的主題歌
- 宇多田ヒカル『桜流し』
- BUMP OF CHECKEN『ジャングルジム』
- amazarashi『多数決』
宇多田ヒカルさんの『桜流し』は曲の雰囲気が作品に合っているように感じます。
BUMP OF CHECKENさんの『ジャングルジム』は「欠けた月の黒いところ」という歌詞があり、絶対的幸福と相対的幸福との間での葛藤が描かれています。
『流浪の月』の次に読みたい本屋大賞受賞小説!
チェックしてね♪