『キッチン』のあらすじと感想を知りたいなぁ。これから読もうか迷ってるけど、面白いのかな?
読み終わったけど、うまく言葉にできないから内容を解説していほしいなぁ
こんなお悩みを解決します。
この記事で分かること
- 吉本ばなな『キッチン』あらすじ
- 『キッチン』読んだ人の感想
- 『キッチン』の内容解説ネタバレあり
- 『キッチン』の次に読みたい小説
どうも、年100冊の読書を楽しんでいる、おみそ(@kuminasu_omiso)です。当ブログ「くもゐなす茶房」の看板猫です♪
くもゐなす茶房のマスター・飼い主です。おみそに本のことを学んでいます!
年齢を重ねるにつれ、人生には喪失がつきまといます。
これを読んでくれている方も何かしらの喪失を経験して、今があるのではないでしょうか。
この記事では、吉本ばななさんのベストセラー小説『キッチン』のあらすじや感想をお届けします。
『キッチン』を一言で表現すると心温まる愛と喪失の物語です。
短編小説でありながら非常に読み応えがあり、読後、優しさに包まれた世界に連れていってくれる作品です。
それでは、本の世界をいっしょに旅しましょう
吉本ばなな『キッチン』を読む前に
吉本ばなな『キッチン』を読む前に押さえたい、簡単な作品内容や登場人物を紹介しています。
すぐにあらすじや感想を読みたい方は読み飛ばしてください
『キッチン』作品概要
『キッチン』とは?
著者:吉本ばなな
発表年:1987年
受賞歴:第6回海燕新人文学賞
文庫本『キッチン』には、吉本ばななさんの短編小説『キッチン』『満月ーキッチン2』『ムーンライト・シャドウ』が収録されています。
今回紹介するのは『キッチン』になります。
作品内容(裏表紙より)
家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくるー。
唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。
世界30ヵ国以上で翻訳され読みつがれる永遠のベストセラー小説。
吉本ばなな『キッチン』裏表紙より
登場人物:吉本ばなな『キッチン』
『キッチン』の主要な登場人物は下の3人です。
桜井みかげ(さくらいみかげ)
若くして両親を亡くし、祖父母に育てられた女子大生。中学生になる頃、祖父を亡くす。大学生で祖母を亡くしたところから物語は始まる。
田辺雄一(たなべゆういち)
みかげの一つ年下で、同じ大学の学生。みかげの祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしている青年。祖母と仲が良かったため、葬式を手伝ってくれた。雄一自身も母親を亡くしている。
田辺えり子(たなべえりこ)
本名は雄司。雄一の元父親で、現母親でもある。
吉本ばなな『キッチン』あらすじ&名言
当ブログオリジナルの『キッチン』あらすじと名言を紹介します。
未読の方も既読の方もお楽しみいただける内容になっています。
あらすじ:吉本ばなな『キッチン』
私がこの世で一番好きな場所は台所だと思う。
吉本ばなな『キッチン』p7より引用
唯一の肉親である祖母を亡くしたみかげは、台所にふとんを敷き、眠っていました。
冷蔵庫のぶーんという音が落ち着くのです。
葬式が終わってから三日たっても、涙はあまり出ませんでした。
確かにそこにいたはずの"家族"ひとり、またひとりと減り、とうとう自分だけになったという実感を持てずにいたのです。
ただ、時間は淡々と流れていきます。
みかげは、一人で住むには広くすぎるその家から引っ越す必要がありました。
そんなとき、家のチャイムが鳴ります。
慌ててドアを開けたみかげの視線の先には、祖母の葬式を手伝ってくれた青年、田辺雄一が立っていました。
「とにかく今晩、七時頃うちに来て下さい。これ、地図。」
吉本ばなな『キッチン』p10より引用
雄一は、祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていた青年です。
祖母は雄一のことを可愛がっていて、雄一もまたみかげの祖母のことを気にかけていたため、葬儀の手伝いをしてくれていたのです。
何もわからないまま雄一の家に行ったみかげ。
自宅に招かれた理由を尋ねると、雄一は応えます。
「困っていると思って。」
「おばあちゃんには本当にかわいがってもらったし、このとおりうちには無駄なスペースが結構あるあから。」
「だから、使ってもらおうと。」
吉本ばなな『キッチン』p16
そして、みかげは田辺家に拾われることになり、物語は進んでいきます。
これは、家族でも友人でもない関係の三人の喪失と愛の物語ー。
ー「くもゐなす茶房」オリジナルあらすじ
名言:吉本ばなな『キッチン』
『キッチン』はみかげの人を理解しようとする姿が印象的です。
心に温もりをくれる言葉がたくさん登場します。
ですが、今回はわたしが一番心に響いたえり子の名言を紹介します。
人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大きくなっちゃうの。
吉本ばなな『キッチン』p60より引用
作品の中で、えり子の過去については書かれていますが、詳細なエピソードが描かれているわけではありません。
それでも、えり子が生きてきた中で、"実感"したことを語っているように思えます。
何かを捨てなければ生きていけない状況に陥ったときこそ、自分か譲れないものが分かるのかもしれません。
「絶望があるから希望がある」というありふれた言葉を実感に変えてくれる、素晴らしい名言です。
感想:吉本ばなな『キッチン』
『キッチン』を読んだ感想を書いています。
読了直後の感想がこちらです。
感想と解説で深堀していきます♪
悲しみを受け入れるからこそ前を向ける
失った悲しみをなかったことにはできません。
その人が大切であればあるほど、なかったように忘れて生きることなんてできないと思います。
喪失、別れ、挫折...
人生の中で、みなそれぞれが悲しみを抱えています。
そしてその悲しみが癒えるには、時間がかかります。
それが長ければ長いほど傷が深いかと言えば、そうでもないような気がします。
悲しみを受け入れて前を向けるようになるタイミングは人それぞれです。
唯一の肉親である祖母を失ったみかげにも、時間が必要でした。
みかげにとってのタイミングは、実家を正式に出た日でした。
わたしも大切な人を失った経験があります。初めは忘れようとしました。でもできませんでした。今も、忘れることはできません。
それでいいと、今は思っています。忘れるのではなく、喪失を受け入れるからこそ、前に進める。
これは小説『キッチン』を読んで感じたことでもあり、実感でもあります。
温かくも鋭い感性
『キッチン』を読んだ後、心が温まるだけでなく、前に進もう、そう思えました。
それは、みかげが温かくも鋭い感性の持ち主だからだと思います。
彼女の心の声は、物事の本質をつく、鋭さを感じます。
同時に、温もりもあります。
それは、みかげが常に人の心や世界の美しさを見つめているからではないでしょうか。
みかげの温かさについてはこちら「「キッチン」という物語が人の心を温める理由」で詳しく解説しています。
読点の使い方が、好き
これはわたしの好みですが、読点の使い方がすきです。
特に、グッときた文章がこちらです。
宗太郎は思わずリストからはずして、しまった。風が、強い。
吉本ばなな『キッチン』p41
読点があることで、後の言葉に余韻が生まれます。
『キッチン』は読点の位置が絶妙で、文章に心地よいリズムが流れているように思いました。
読点の位置によって、文章の印象は大きく変わります。
読点に注目して読んでみるのも面白いかもしれません。
解説&考察:吉本ばなな『キッチン』
『キッチン』のテーマとタイトルの意味、長く愛され続ける理由を考察し、解説しています。
ここからはわたしの個人的な考察になります。
ネタバレを含みますので、読んだ方向けの内容です
タイトル「キッチン」の意味は?
わたしが『キッチン』を読んで、本書のテーマは「喪失と愛情」だと感じました。
そして、その喪失と愛情を象徴するものがタイトルにもなっている「キッチン」です。
台所には、生活の足跡があります。
みかげの実家の台所には、祖母が生きていた跡があります。
そしてそこには、祖母もうはいません。
みかげの家族がいたとき、台所には独特の忙しなさがあったでしょう。
時が経ち、一人また一人と家族が減っていき、みかげはひとりきになってしまいました。
そこには、みけげの何とも言えない寂しさがあります。
ですが同時に、台所は家族がいたときの生活の跡を感じることができます。
冷蔵庫のブーンという音を聞きながら眠ると、まだ台所が生きているようで、家族との生活を近くに感じることができたのかもしれません。
「台所」は、"家族がいた"という愛情の象徴であり、"ひとりである"という喪失の証でもあるのです。
4つの「キッチン」
作中には、主に4つの「キッチン」が登場します。
4つの「キッチン」
- 「みかげの実家の台所」
- 「田辺家の台所」
- 「見ず知らずの人の厨房」
- 「夢のキッチン」
ですが、実際に「キッチン」という言葉が使われているのは、最終ページの「夢のキッチン」だけ。
「キッチン」が一度しか使われていない理由も含め、4つの「キッチン」について解説します。
➀みかげの実家の台所
『キッチン』における「台所」は愛情の象徴のようなものです。
みかげは祖母を亡くした後、実家の台所で眠るようになっていました。どこにいてもよく眠れなかったみかげが、唯一寝ることができたのが、冷蔵庫のわきでした。
一人でいると部屋の静けさに何とも言えない淋しさが込み上げてくることがあります。
きっとみかげも、家族の跡を感じたかったのではないでしょうか。
家族の存在を感じられる場所、それが「台所」だったのです。
②田辺家の台所
台所は日々の食を司る場所。食べることは生きることそのものです。そして、何かを食べるというのは命をいただくこと。
雄一の「家と住人の好みをどこで判断する?」という問いに対して、みかげは「台所。」と答えます。
田辺家の台所を見た彼女は「私は、この台所をひと目でとても愛した。」と言いました。
みかげは台所を通して、その人の死生観を見ていたのかもしれません。
田辺家も母を亡くしています。彼女は田辺家の台所から喪失感や愛情を感じ取っていたのかもしれませんね。
③見ず知らずの人の厨房
悲しみの克服、死者との決別は突然に訪れるものです。
みかげの場合、それが訪れたのは実家を正式に引き払う前日でした。
バスに乗っていたみかげは、突然涙が止まらなくなりあわててバスを降ります。
祖母と孫の微笑ましい会話を聞き、無意識のうちに泣いてしまっていたのです。
そんな彼女の耳に入ってきたのは、見ず知らずの人の厨房でした。
他人の厨房の音「にぎやかな仕事の声」を聞き、もう戻らない家族との日々と、確かにそこにあったにぎやかな時間を思い出し、「どうしようもなく、そして明るい気持ち」になったみかげ。
ここでの「厨房」もまた、喪失と愛情の象徴であり、みかげの心の回復の兆候が表れています。
④夢のキッチン
みかげは夢を見ました。実家の台所の流しを磨いていました。
台所を掃除するということは何を意味しているのでしょうか。
わたしは、喪失を受け入れて前に向かって進んでいこうとするみかげの決意のように感じました。
最後の場面で「夢のキッチン」という言葉が出てきます。
「台所」より少し明るい印象のある「キッチン」
前を向き始めているみかげの未来への希望と他人への愛情の象徴が「キッチン」なのかもしれません。
「キッチン」という物語が人の心を温める理由
家族、絆、喪失、愛情...
この物語からは様々な言葉が連想され、その全てを温かく包み込んでくれるような優しさがあります。
そんな「キッチン」が人の心に響く温かな小説として、長く幅広い世代に愛されることには理由があるように思います。
それは、「みかげが一貫して相手を知ろうとしている」ということです。
「みかげ」を通して見た景色や人の誰も(どれも)が美しく見えます。世界に関心を持ち、理解しようとするみかげの言葉は読者の心に深く刻まれるものばかりです。
そのようなみかげの温かさを象徴するシーンはいくつもあります。
えり子の第一印象
かなり歳は上そうだったが、その人は本当に美しかった。(中略)
その全体からかもしだされる生命力の揺れみたいな鮮やかな光ー人間じゃないみたいだった。こんな人見たことない。
吉本ばなな『キッチン』p17より引用
これはみかげがえり子と初めて会ったときの描写です。
美しいものに惹かれるみかげの素直さがよく分かります。
雄一はひまが嫌い
雄一も手伝ってくれた。彼は今夜ひまらしい。これも気づいたことだが、かれはひまがとても嫌いなのだ。
吉本ばなな『キッチン』p41より引用
雄一が買ってきたワープロで、みかげの引っ越しハガキを作りました。宛名を書く手伝いをする雄一の姿を見て、みかげが心の中で思ったことです。
「この人はどんな人なのだろう?」と分かろうとするのは、人に対する愛情のように思います。
みかげに他人を理解しようとする気持ちがあったからこそ、「ひまが嫌いな雄一」という新たな面に気付くことができたのです。
雄一への思い
私は今、彼に触れた、と思った。一ヶ月近く同じ所に住んでいて、初めて彼に触れた。
吉本ばなな『キッチン』p43より引用
物理的に触れたのではなく、心に触れたということです。
このように相手に関心をもって、分かろうとする前提があるみかげの心が温かく、読者の心まで温めてくれるのではないかと思います。
吉本ばなな『キッチン』のレビューをチェック
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まとめ:吉本ばなな『キッチン』あらすじ解説&感想
吉本ばななさんのデビュー作&ベストセラー小説『キッチン』のあらすじや感想を解説しました。
この記事のまとめです。
まとめ
- 祖母を亡くした女子大生の喪失と愛情の物語
- 悲しみを受け入れ、前を向こうと思えるやさしい物語
- 「キッチン」は文中に一度だけ使われている
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
この記事が少しでもあなたのお役に立てれば幸いです。
それではまたお会いしましょう♪
おみそのつぶやき:吉本ばなな『キッチン』の次に読みたい小説
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